この教科書は,子どもたちが,英語の表現や文字を学ぶとともに,映像や音声を通じ,日本と世界の国々の文化の違いや共通点を発見し,お互いに英語で伝え合うことの楽しさや喜びを実感することを願って・・・
このブログではこれまでに、日本語のこと・英語のこと・数学のこと・教育のことなどについて書いてきましたが、中でも小学英語に関する記事が頻繁に読まれています。
特に子供を持つ大人にとって、英語教育は重大な関心事のひとつでしょう。
今回は、以前に掲載した017【カテゴリー:教育】小学英語は不要であり、国語教育の改善こそが必要である ①を補足するため、2020年(令和2年)4月施行の学習指導要領における小学英語について新たに判ったことを記します。尚、中学英語についても軽く触れています。
017【カテゴリー:教育】小学英語は不要であり、国語教育の改善こそが必要である ①において、小学校の英語について『本格的に教えているようには見受けられない』と書きました。
2019年に尼崎市立図書館にて、文部科学書検定済小学英語の教科書の現物を見て、そのような印象を受けたからです。
この度、新たに1冊の文献*1を見つけたのですが、そこには、現行課程(2020年4月施行) の小学5・6年生でも文法を履修すると明記されていました。
*1 編著:コンデックス研究所 『いつの間に?! ココまで変わった学校の教科書』 成美堂出版 2019年8月20日発行
小学6年生までに単語 600~700語程度、挨拶など使用頻度の高い表現、
肯定文・否定文、命令文、助動詞(can,do など)、基本的な代名詞、動名詞、過去形、疑問詞で始まる疑問文、
主語+動詞、主語+be 動詞+名詞 / 代名詞 / 形容詞、主語+動詞+名詞が扱われるとのことです。
助動詞の do は、Do you like ~? などの疑問文の文頭の Do 、ならびに Yes, I do. / No, I don't. の do のことです。
また、主語+動詞、主語+be 動詞+名詞 / 代名詞 / 形容詞、主語+動詞+名詞 は、それぞれ第1文型、第2文型、第3文型のことです。
大雑把に言うと、従来の中1英語がそのまま小学5・6年生に前倒しされ、中2英語の動名詞や高校英語のS・V・Oの概念が付け加えられていることになります。
一方で、中学英語については それほど大きな変化は見られません。
書店で市販の参考書などを見れば判りますが、
中1英語は従来通り be動詞や一般動詞から始まり、従来は中2英語の初めに習った過去進行形と、助動詞 will を用いた未来の表現が中1英語に前倒しされているようです。
また、中2英語の最後には、中3英語から受動態が前倒しされ、中3英語の最後には、高校英語の仮定法のうち初歩的な表現が追加されています。
さて、今回 見つけた文献には、小学5・6年生でも英語の文法を本格的に扱うという趣旨のことが書かれていました。
そこで、この度 改めて尼崎市立図書館に所蔵されている文部科学省検定済教科書を見てきたのですが、
その前に、そもそも小学校学習指導要領(2017年告示)解説の記述を抜粋すると、
高学年の外国語科の英語における指導計画の作成と内容の取扱いについては,次のように設定した。
・言語材料については,発達の段階に応じて,児童が受容するものと発信するものとがあることに留意して指導することを明記した。
・「推測しながら読む」ことにつながるよう,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現について,音声と文字とを関連付けて指導す ることとした。
・文及び文構造の指導に当たっては,文法の用語や用法の指導を行うのではなく,言語活動の中で基本的な表現として繰り返し触れることを通して指導することとした。
などと書かれています。
かなり曖昧な記述ですが、引用箇所の最後に、『文法の用語や用法の指導を行うのではなく,言語活動の中で基本的な表現として繰り返し触れることを通して指導する』とあることから、文法をガチガチに固める訳ではないことが見て取れます。
そして、実際に使われている文部科学省検定済教科書*2 の構成を説明すると、
*2
文部科学省検定済教科書 38 光村 英語 507 小学校外国語科用 Here We Go! ⑤
文部科学省検定済教科書 38 光村 英語 607 小学校外国語科用 Here We Go! ⑥
いずれも平成31年(2019年)3月7日検定済、令和2年(2020年)2月5日発行
章(Lesson 又は Unit)ごと、節(Part 又は Section)ごとに、そこで扱う文法項目を明示した例文は掲載されておらず、新出単語すら書かれていません。
単語は、巻末にイラストとセットでまとめて載せているだけで、教科書とは別の副教材を併用することを前提としているようです。
例文に関しては、巻末にまとめて掲載されていますが、『文法』『きまり』ではなく、あくまで『表現』という扱いに過ぎません。
上で引用した学習指導要領の記述に沿った構成です。
2019年に見たものとは別の教科書でしたが、ほぼ同じ構成でした。
※ 2020年度施行の学習指導要領ですが、2018年度から2019年度は移行期間として設定されており、
地域によっては 2018年度から公立小学校でも5・6年生で教科としての英語の授業が行われていました。
そのため2019年の時点で尼崎市立図書館には文部科学省検定済教科書が置かれていたということです。
写真やイラストが大部分を占めており、また、会話文(本文)のページよりもアクティビティのページのほうが圧倒的に多く設けられています。
やはり、文法については本格的に扱う訳ではないようです。現に、中学に上がってから、再度 be動詞や一般動詞から始めるのですから。
このような内容で、テストを実施して点数を付けて、通知表で成績評価まで付くという、不思議な現象が起きています。
小学校への英語教育導入の以前から、教育現場では小学英語導入に反対する意見が多数を占めていたと聞きますが、現状、小学校の教員としては なかなかやりづらいのではないでしょうか。
以前から、教育現場を除くと小学校への英語教育導入に賛同する人は多く、『日本の国際競争力』云々という話と『早く始めるほど英語力は身に付く』というい幻想が、小学英語導入に賛成する根拠として頻繁に掲げられていましたが、
現状では中学・高校へとつながる英語の土台・素地を身に付けるに足るほどの内容にすらなっていないというのが、私の率直な感想です。
むしろ、楽しむことが主な目的とされているようにさえ受け取れます。
最近の小学・中学の教科書の裏表紙には、教科書を使う児童・生徒や保護者に向けたメッセージが書かれています。
今回 尼崎市立図書館で見た光村図書の教科書には、次のように書かれていました。
この教科書は,子どもたちが,英語の表現や文字を学ぶとともに,映像や音声を通じ,日本と世界の国々の文化の違いや共通点を発見し,お互いに英語で伝え合うことの楽しさや喜びを実感することを願って編集したものです。ご家庭においても,折にふれ,この教科書を子どもたちと言葉や文化について語り合うきっかけとしてご活用ください。
この記事の冒頭に記したのは、この一部です。
やはり、2020年に教科化される前の課外活動の時と同じで、楽しむことが主眼のようです。
楽しみながら、社会の地理でも習うことを題材の一部としつつ、英語で頻繁に用いる表現の初歩的なものに触れる、というのが実情のようです。
文法については中学に上がってやり直すため、中学英語にも大きな変化はありません。
多くの親が不安にさせられたことでしょうが、その影響を受けて英語教材の出版や学習塾・英語の塾などの界隈がに賑わっているのではないでしょうか。
これまで一貫して書いてきましたが、小学英語は不要であり、それ以前に我々の母語である日本語(国語)教育を改善するべきだというのが、私の考えの根幹にあります。
今後もこの問題については調べて、新たに判ったことがあれば続けて書いていきます。
また、中高生であれ大人であれ、英語であれ他の外国語であれ、どのように学べば良いのかについても、私の経験を踏まえて書いていく予定です。